日本を代表する伝統のスポーツカーといえば日産のフェアレディZでしょうか。初代の発売は1967年ですが、その原型となるモデルはさらに15年も遡る1952年に「ダットサン・スポーツ」としてその原型が登場しています。古さだけなら1950年に生産が始まったポルシェの初代モデル(356)にほぼ匹敵します。残念ながらフェアレディZには中断期間があるのですが・・・。
ポルシェや日産と比べると、「インプレッサWRX」の歩みはまだまだせいぜい20年そこそこに過ぎないです。1992年に登場したインプレッサにWRXが設定されたのが翌年の1993年のことですが、当時はGTOやらNSXやらが盛り上がっている中で、「堅実で速いクルマを地道に作り続ける」というコンセプトは、日本人の気質にとても合っていたようで、ファンは着実に増え続けています。1993年の当時に30歳だった人でも、まだまだ50歳代前半で購買力も相当にあるはずですから、ファンを大事にしてきたスバルの戦略が現在の好調さに少なからず結びついている気がします。
あまり伝統に縛られるのは是としないのがスバルで、そのためか車名もコロコロと変わります。「STi」なのか「STI」なのか「インプレッサWRX」なのか「インプレッサSTi」なのか「WRX-STI」なのか・・・世代によってかなり使われる名称も違います。たまに話が通じないヤツが出て来るとちょっと面倒ですが・・・。
スバルがそんなファンを非常に大切にしていることを示す逸話があります。2007年に3代目「インプレッサWRX」が登場した時に、思い切ってセダンを廃止して欧州式ハッチバックをベースとしたいわゆる「ホットハッチ」路線での展開を狙ったことがありました。従来のユーザーからは相当な反発があったようです。「なんで三菱も日産も3BOXボデーで作っているのに!スバルはハッチバックなんだ!」「三菱や日産とは勝負しても勝ち目がないってことか!」
この2007年はWRXの発売時期としては最悪で、その存在が最も危ぶまれた時期だったようです。ライバルのランエボは、ユーザを広げる為にゲトラグ製DCTを採用し、大きな話題を引っさげて「AWDスーパースポーツ」の決定版として登場した日産GT-Rも愛知工業製のDCTを特注で用意するなど、AWDスポーツのライバルが2ペダルで話題になりました。「MTでは制御が無理な領域に入った!」 これに対してWRXはMTのみで欧州市場を目指してのホットハッチへの転身を意図したようですが、国内のファンはこれに懐疑の目を向けました。
「WRXはゴルフGTIではない!!!セダンボデーにプライドを持て!!!」大抵のメーカーならば一度決めた方針をそう簡単には覆さないでしょうけども、スバルはこのファンにリアクションに即座に反応してセダンボデーのWRXを追加投入して復活させました。「ファンの声」が伝わる「俺たちのスバル」の一体感が見事に結実したのは、すぐに行動に移ったスバルも人情味を感じる対応によるところが大きかったようです。
欧州でいろいろなメーカーから出されている「横置きFF」によるホットハッチは確かに魅力的に映ります。日本メーカーもホンダ、スズキ、マツダなどが参戦してます。しかしWRXの設計は縦置きエンジンのAWDで、しかも水平対抗エンジンまで使っているわけです。それだけの凝ったユニットを使っておいて、低コストで手軽なFFホットハッチの市場に参入しようとするのが、そもそもの間違えの元・・・。どっかのドイツメーカーは縦置きFRに直列6気筒エンジンという勘違いホットハッチを売ってますけど販売はさっぱりです(やたら個性的と絶賛されてますけど・・・不人気)。
スバルとファンの絆の中でWRXというモデルの「イディア」が形成されて、それはもちろん「M3」や「C63AMG」とも違うし、「ゴルフGTI」や「シビックtypeR」とも違う、「スバルWRX」というジャンルの孤高のスポーツモデルになりました。これって・・・そうです!!!60年以上の年月をかけて「ポルシェ911」という孤高のジャンルが確立されましたが、そんなドイツ自動車産業のレジェンドに対抗するようなモデルが、日本の群馬県で作られ続けているわけですね・・・。
若いユーザーが運転していることも非常に多く見かけるWRXですが、これから10年20年の月日を「孤高」のままに突き進んだならば、2007年の「あの時」がこのクルマにとっての非常に重要な「転換点」であり、スバルを愛するファンによってメーカーが誤った道を進むことがなかった!!!そしてランエボよりもGT-Rよりも日本のスポーツカーユーザーに愛されるモデルへと成長した!!などと後世に伝えられる美談として尾ひれ羽ひれが付けられて語り継がれることになりそうです。
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